文化強化月間(3)

文化強化月間

粧っていた山も眠りにつき始める今日この頃、日没はどんどんと早くなり、夜は長さを増しております。

ということで、ちょうど知己の関わる舞台が続くのでせっかくだからそれ以外も加えて色々見てインプットしようという月間でした。

11月最終週から今日までのおよそ20日間で4つの舞台を見てまいりました。その感想をつらつらと書いていこうと思います。

(ここまでコピペテンプレ)

おと小「ミキアカシ」

千秋楽は終わっていますが、ガッツリ内容に言及するので、配信等でみたい方はブラウザバック推奨。直下はしばらく公演内容の引用なのでご安心を。

「ミキくんが殺されたって本当?」

「ミキくんは死んだんだよ」

「……ミキくんは亡くなってしまったんですね」

「アカシが死んだの……?」

「死んだよ。ミキアカシ」

「……死んだ?」

「アカシくんが死んだ」

「俺はミキの死体、見たぞ」

「ミキくん死んじゃったの?」

「アカシが死んだなんて嘘だ」

「ミキアカシは死んだよ」

(カンフェティページ https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=75668& 、公演内容より一部抜粋。アクセス 11, Dec., 2023)

ミキアカシの死によって始まる、90分ほどの学園もの(?)。

こちらも小規模劇場でまぁ80くらいでしょうか。教室を模したのか、いわゆる小学校の机と椅子(あれ、今の小中学校ではデザイン違うもの多いらしいですよ。)が奥に並べられ、お習字が5つ並びます。

もうね、嫌な予感が止まらないんです。

  1. 耳を掩いて鐘を盗む
  2. 歳月人を待たず
  3. 希望の朝
  4. 疑わずは罰せず
  5. 李下に冠を正さず

1は、その音が鳴るのが余人に聞こえぬよう、自分の耳を塞いで鐘を盗むということから、悪事に手を染めながらそれを考えないようにするとかそういう感じ。2は文字通り時間は人のことなど待たないで過ぎ去ってしまう。だから、勉学に励みなさいとか、思い切って行動しなさい。3、4を飛ばして5は有名ですね。しばしば瓜田に履を納れずとセットにして疑われるようなことをしないというような感じ。すももの木の下で冠を直したら、盗んだ実を隠したと思われましょう、瓜の畑で靴を履き直すと、瓜を盗んだと言われましょう。

もうこの段階でふぇぇとなっているのですが、つづいて4。通常はこれ「疑わしきは罰せず」という法学の原則を言います。もとはin dubio pro reoで直訳すると「疑わしい時は被告人の利益に」とかになりますね(cf. 刑事訴訟法336条、白鳥決定)。はい。否定が多い。もうこれ絶対本当の意味での解決しないじゃん……

そして異彩を放つ「希望の朝」。

……それ来ます?

中身は全く違いますし、学校がテーマくらいしか似てるところないんですが、六番目の小夜子とか思い出しました。ミキアカシの死を追いかけるクラスメイト、部活仲間。情報を与えて彼ら彼女らを動かす情報屋。大人と子供、最後まで他者とほとんど関わらないあの人。

ミステリーにおける謎解きはしばしば3つに分類されます。まぁ大体殺人を想定してる気がするのでその感じで言うと、

  1. どうやって殺したのか How done it
  2. 誰が殺したのか Who done it
  3. なぜ殺したのか Why done it

ミキアカシの死、この全ては解き明かされます。音響で、台詞で、そして演技でもって。普通のミステリーだと「でもーーを救えなかった」「簡単なすれ違いだった」そういう後味が残ることこそあれど、普通はこれで全てが解き明かされるんです。しかし、犯人が舞台から降りたあと、クラスメイトの少女は気が付きます。いや、気がついてしまうと言った方がいいのかもしれません。消えた死体はいったい何処に。

ごくごく一部の登場人物しかその存在を知らず、劇中でもほとんど登場しないあの人。ある意味犯人以上に恐ろしい印象を受けるあの人がその答えを観客に叩きつけて舞台は幕を閉じます。そして閉じゆく影で数少ない全てを知っていたあの子が繰り返す。

忘れちゃぁ、いけないよ。この街には殺人鬼がいるんだから。

(表記、台本参照してないのでちがいそう)

ところで皆さんは完全犯罪の仕方をご存知でしょうか。よく言われることですが、"死体が見つからなければ殺人事件にはなりません"。そうなんです。事件は発覚しなければ事件でない。疑われなければ罰されることはないんです。願わくば、行方不明者の情報がまた出ないことを。

はい。で、感想というかオタクが発狂するんですが、情報屋ちゃんいいですよね。コミュ障拗らせてる感じとか、最後駆け込んできた時最高に可愛かった。情報を提示する時って、文章だと一人称で語り手に真実を語らせる(ここで信頼できない語り手とか出てきますね。叙述ものでよく使うやつ)か、三人称の神の視点で事実を語るかなんですが、演劇だと基本台詞なので信頼できない語り手である可能性を排除し切れません。

でも情報屋ちゃんは「嘘をつかない」と宣言しました。いい子じゃん。現実的には「わたしうそつかないもん!」なんて言ったところで本当に嘘をつかない人はおそらくいないわけですが、情報屋ちゃんがそう言ってるんだから本当のことしか言わないんですよ。だって情報屋ちゃんがそういってるんだもん。

姉の所業を知りながら隠した。通報の義務を怠ったわけですが、おそらく大きな罪には問われないでしょう。それでも自分の耳を塞いで、必死に友人を探す人たちに背を向けた。このことは消せない十字架となって彼女の上に残り続けるのかもしれません。それでも一歩を踏み出した彼女の行く末に、どうか溢れんばかりの祝福と幸福を。

多分どなたが演じていてもある程度情報屋ちゃんは刺さったと思うのですが、秋山さんの低音と早口いい……ということで限界と化しました。アフタートークで秋山さんがなっていたみたいに。よくある泰然としてたり飄々としてたりする情報屋ではなく、他者との間に必死に壁を作って、愛する姉の持つ鐘の音が聞こえないように閉じこもる年相応の学生。コミカルなシーンも笑えてよかったのですが、体操座りして耳を塞ぐ情報屋ちゃんを幻視することもあって秋山さんの情報屋、とてもよかったです。

皆さん本当によかったのですが、加えて特に言及したいのが警官役の豆咲さん。普通の「大人」とはまた違う「国家権力」に属する本来は、理想的には最も信頼できるはずの大人をよく演じていてすごいなぁとアフタートークまで聞いていたらなんかこれが舞台2回目とのことで。はい。ぷろってすごいなぁ。6回くらい乗ってるけどあんなんできんわ。

あの街の日常は続くでしょう。友を、隣人を、恋人を失おうと、流れる時を止めることはできません。それでもこのお話はあそこで終わります。多分、あそこで終わるのが一番きれいです。私も文章書く人間ですが、あそこまでの澱んだ闇はなかなか書けませんね。人が死んじゃうお話とか怖いお話苦手なので。

情報屋ちゃんの良さとかをさらに書き続けてもいいのですが、それはまたの機会に。こういう演劇、なかなか見る機会がなかったのですがとてもいい経験ができました。末筆ですが、完全暗転での出はけや、シビアなタイミングが要求されていそうだった音響照明をやられていたスタッフの皆様お疲れ様でした。某所で舞台芸術に裏方として関わっているものとして大変勉強になりました。また何処かの箱でお会いする日を楽しみに。

鐘花文庫拝