観てきました

新国立劇場オペラ研修所 修了公演 フランシス・プーランクカルメル会修道女の対話

1794年7月、恐怖政治を推し進めたロベスピエール国民公会に逮捕され処刑される少し前にギロチン刑に処されたコンピエーニュの16修道女殉教者を題材にしたオペラ。当時のフランス教会はこの殉教の少し後にロベスピエールが処刑されて恐怖政治が幕を閉じたことから、この殉教によって恐怖政治の終わりがもたらされたと考えたとか。

コンピエーニュの16修道女殉教者は現時点では福者ですが、2022年に教皇フランシスコによって列聖審査の開始が宣言されたということです。アサルトリリィ界隈から来た方は私が執筆したオリジナルリリwiki(https://w.atwiki.jp/orily/pages/235.html#saintname)に軽く書いてあるのでご存知かもしれませんが、一応サラッと解説。

まず、カトリック教会(プロテスタントなどにおいては聖人崇敬は行われません)では「生存中にキリストの模範に忠実に従い、その教えを完全に実行した人( 尊者・福者・聖人とは? | カトリック中央協議会, access Mar., 4, 2024)」を聖人として崇敬しています。教会がある人を聖人として宣言することはいろいろな意味がありますが、まぁ外の人から見ると名前に「聖」がつく、洗礼名として使える様になるとかがわかりやすいでしょうか。この聖人に至るためにはいくつかのステップがあります。まず、ある人が聖人の列に加えられるかもしれないから調査を始めましょうとなります。この調査はヴァチカンの列聖省が行います。きっかけとしては徳ある行為(マザーテレサコルカタの聖テレサの場合は多分こっちに該当します)があるか、コンピエーニュの16修道女の様に殉教したかになります。前者を「証聖者」、後者を「殉教者」と呼び、少し条件が変わってきます。

さて、列聖省による調査が始まりました。このタイミングで対象となる人は「神のしもべ」と呼ばれるようになります。続いて生き様が福音的であったなら「尊者」にレベルアップ。調査はさらに続きます。証聖者であれば一つの奇跡、殉教者であればそれが殉教であった時点で列福が許され、「福者」へと列せられます(beatification)。日本に関わりのある福者としてはユスト高山右近ペトロ岐部と187人殉教者が有名ですね。共に殉教者です。日本における教会の歴史は殉教者の歴史とも言われ、我々日本カトリックの信仰は彼ら彼女らの血の上にあるとまで言われたりします。江戸幕府による迫害や、明治新政府による大弾圧浦上四番崩れを始め全国で多くの殉教者を出しました。棄教したものも少なくなく、踏み絵を題材にした遠藤周作の「沈黙」なども有名です。私まだ読んだことないんですけど。

列福の時のとは異なる少なくとも一つの奇跡をきっかけに、列聖省は列聖審査を始めます。コンピエーニュの16修道女殉教者は今この段階ということですね。それが奇跡であると認められ、聖人に相応しいと判断されると列聖(canonization)され、聖人の列へと加わります。日本に関係する聖人にはカトリックを伝道した聖フランシスコ・ザビエル、日本で活動し帰国後妻子を持つある軍曹の身代わりとなって命を落とした聖マキシミリアノ・マリア・コルベ神父、日本史の教科書では長崎二十六聖人として記述される豊臣秀吉の命によって刑死した日本26聖人殉教者、江戸幕府によって処刑された聖トマス西と15殉教者などがおられます。

さて、あんまり公教要理の話ばかりしていてもアレなのでオペラの感想です。

プーランクといえば私はト長調ミサで、しばしばLPを回して聞いています。そのこともあって、聞いたことある旋律だなぁということもありました。音楽の表面を撫でさすっているレベルの私だと年代を知っていてもグレゴリオ聖歌の少し後っぽいなぁという印象を受けてしまいますが、詳しい人ならもうちょっと音楽に立ち入った感想が出てくるのでしょう。さらに前の二重導音終始とかゴツくて好き。

やはり宗教曲だなという印象を強く受け、私が普段関わっているモーツァルトヴェルディプッチーニといったオペラとは一線を画す作品でした。フランスオペラは私はカルメン、エトワールくらいしか関わったことないのですが、カルメル会修道女の対話はフランスオペラ最高傑作の一つと断言してもいい、というより私が一番好きなのを上げなさいと言われたら即座にあげるくらいには素晴らしい音楽でした。リブレットも世俗と聖、生と死の間の葛藤とその解決を巧みに描ききっていて、まさしく愛の物語という感想がカーテンコールの時に出てきました。

舞台面や演出。中劇場は初めてだったのですが回転する舞台をうまく使うなぁと思いつつあの速度で動くものの上にあの壁怖、プロすごとなりました。三幕で布引っ張るところとか悲鳴出しかけた。そうなんですよ。壁とか間仕切りくらいに思ってたんですよ。プログラムノートにもそう書いてあったし。フィナーレでああなるとはおもわないじゃん。しかも音に合わせてあの布の演出やるとは思わないじゃん。エグい演出するなぁと思いました。素晴らしい演出だけど心へのダメージがでかい。観た方にはこれで通じると思うんですが、最後奥で横並びになってるの一番怖かった。

司祭の最後のミサで置かれる聖体顕示台、聖杯、そして香炉。香炉の使い方間違ってね?とは思いましたがあぁこういう感じのミサ預かったことある……となりました。両形態の拝領したのかな。あと7月は年間に該当するのでローマ・ミサ典礼書の総則346条の規定により本来であれば緑色のストラをかけるはずです。司祭様が首からかけてた細長い布ですね。しかし司祭様は紫色のストラを使われていました。これは347条の方なのかなと思いますが、回心や悲しみを示し、死者の典礼でも使われる紫というのが示唆的でした。

一応サラッと触れておくと、あのストラには4色あります(本当は5色ですが今黒ほとんど使われないはず)。

  1. 白 神の栄光。簡単にいうとおめでたい時に使います。クリスマス後とか復活祭の後、結婚式や洗礼式。
  2. 赤 炎と血。殉教や受難に関わる日に使います。主イエスが十字架にかけられた聖金曜日とか殉教者の祝日。
  3. 緑 堅実さ、忍耐。年間という特にこれといったことがない日に使う。
  4. 紫 回心、悲しみ。クリスマス前、復活祭前、死者の典礼に使う。

大体例年6月ごろにペンテコステ(聖霊降臨)があり、その日はこの規定だと赤色ですがその前後は年間になるので本来は緑。でも司祭様は紫のストラを使われた。

あ、役人が普通に祭具を強奪して祭壇の上に乗ってましたがあれ現代日本でやると多分礼拝所不敬罪になるのでやらないでくださいね。宗教関係は判例が少なかったりするらしいので法学徒が発狂する未来が見えます。牧会活動事件とか、貝塚教会問題とか……

どうしても裏方で関わってる人なので大道具とかいろいろなオペレーションの方が目に入ってしまう人ですが、久々に何かを観て泣きそうになりました。ちょっと色々流行ってるので現地で発声はできませんでしたが、拍手とBraviを送らせていただいて筆をおきます。