製本作業(3)

もりもり製本していきます。

題箋貼り

表紙に貼り付けられた書名を表す紙片を題箋と呼びます。これにも本文と同じように匡郭(きょうかく: 周りを囲む枠線)をはじめとする形式があります。

綺譚では本文と同じ四周双線(子持線ともいう)ですが、江戸期の版本には異なるものも多くあります。また貼る位置もバリエーションがあるようで、中央に貼られることもあります。中央に貼ってあるものに関しては大きな題箋でかつ文字ではなく絵が添えられていることがあり、絵題箋と特記されます。

作業内容が「いいかんじのとこにはる」だけなので解説を続けると、題箋と本文に書いてある書名が同じなのは私が現代人だからです。古い本では複数のタイトルが記述されていることが当たり前にあります。

タイトルが記載される部分としては

  1. 題箋
  2. 見返し(表紙めくった最初と思っていいでしょう。厳密な話は書誌学の文献にあたってください)
  3. (あれば)序文など
  4. 本文の柱(ページの折り目のあたり)

などが挙げられます。これらが全て異なることは当たり前で、どれを「書名」として採用するかは目録制作において決められます。多くは版心題(柱に書いてあるタイトル)を採用しているようですが、それがない場合はどうするのかという話もありなかなか難しいところです。

なぜ題箋のタイトルがあまり採用されないのか。それは印刷製本された時と同じものが貼られている保証がないからと解釈しています。実際、江戸期の本には題箋が欠落しているものや、明らかに貼り直したものがあります。そのように流動しやすいタイトルを目録のトップには置けないという判断なのでしょう。詳細は専門の文献などをあたってください。

穴あけ

取り出したるはMakita 電動インパクタ。ノド側に四つの穴を開け、糸を通す準備をします。この綴じ方には何種類かあり、綺譚で採用した四つ目綴じの他、装飾的な康熙綴じや、縦に長いメモ帳のような大福帳を閉じるのに使う綴じ方などがあります。

私は麻糸を使用しましたが、木綿などの方が楽かもしれないです。蝋引きして表面の毛羽立ちを抑えて滑るようにし、製本用の針(先端が刺繍用などと比して鋭利でなく、太い)でせっせと綴じていきます。ここまで来ればあとは糸を通して終わりになりますが、とりあえず今日のところは穴開けるところまで。

買ってきた麻糸が前のやつと色違うような気がしますが気のせいだと言い聞かせながら。

題箋をはり、穴を開けた

製本作業(2)

新刊作業中の続きです

下綴じ

折れた頁(折り丁って言うらしいです)を順番通りに並べて重ねると、穴を開けてこよりで綴じる下綴じをします。

官僚の方、昔は公文書全部やってたらしいですね。耐久性と保存性という意味ではピカイチなのでそういう意味だったんでしょう。

さて、ものの本やYoutubeのHowto動画によると、専用の目打ちで穴を開けるとされています。こちらがその目打ちです。

金属製の目打ち
目打ち。サイズ比較は鈴木因様のヨートゥンシュベルトペーパーナイフ。

穴を開ける位置に印をつけて、目打ちを当てて叩きます。

叩く……

全然穴開かない……

結構騒がしくガンガン叩いたのですが非力ゆえか全然貫通しません。そこで目に入ったのが木工鞄に入っている錐。これならいけるだろと勢いよく回します。

うでないなった。

今回学んだこととして、紙は意外と硬いです。そりゃ鍋にもなるわけだ。

しかし問題は解決していません。穴を開けて綴じなければ製本はできません。何よりこれは「下」綴じなのでこの後でもう一回綴じる必要があります。感覚のなくなった両腕をさすっていると便利なものが目に入りました。

Makita 充電式インパクタ。

先端をドリルビットに変えて穴を開けていきます。快適。

そうやって開けた穴に紙をよってつくったこよりを通して糊付け、そして綴じた方の天地に角裂を貼り付けて下綴じは完成です。なおこちら使用している糊は全て澱粉糊なので水で溶かして綴じなおせます。乱丁があった場合は是非ご自分で綴じ直してみてください。題箋以外は水つけても大丈夫だと思います。

下綴じが完了したもの。これの角裂はオレンジ色のを選んでみました。

表紙貼り

工程の名前があってるのかはわかりませんが、表紙裏表紙となる別の紙を貼って糊付けしていきます。

表紙用の紙は本の出来上がり(B5 JIS)より一回り大きく裁断してあります。まず中央に軽く糊を乗せて本体と接着、後は四周を折り込んでなんやかんやして小口側(開く方)を糊付けします。詳細はものの本やYoutube解説をご覧ください。

表紙と裏表紙をつけた。

基本的には江戸時代行われていた綴じ方と同じような方法をとっていますがこれは大変ですね。特に当時インパクタなんて便利なものはなかったわけで穴を開けるのも一苦労です。技術ってすごいなぁと思いつつ、糊が乾くまで軽くプレスして放置します。

というわけで今日はこの辺りまで。 もしかしたらイベント当日にスペースで半泣きになりながら最後の糸で綴じる工程をしているかもしれません。

「既刊一冊ですか? あと五分で綴じるので待ってください」

新刊準備中

10月9日のGLfes39に向けて新刊を準備しています。こちらは基本的には印刷会社さんに頼んでいるので後は到着待ちですが、既刊の方をこちらに書きながら作ろうかなと思っています。

版組

小説同人誌、何で書かれるのが普通なんでしょう。InDesign?Pages?一太郎

残念LuaLaTeXだ。

この記事はLaTeXユーザー向けに何かするものではないので詳細は詳しい他の記事に譲りますが、jlreqクラスにpxrubricaでルビなど、luatexjaでフォント周りというスタンダードなことしかしていません。おかしなことはその後。

いわゆる1頁の大きさ、つまり本自体の大きさ程度に出力された最初のPDFがこんな感じ。

画像化されたテキスト: 海岸線路の夜 がたん。列車はブレーキをかけて少しの揺れと共に動きを止めた。  「あ、お姉さん目が覚めました?」  梨璃の頭上から声がかかる。傾いていた体を起こし寝ぼけ眼をそちらに向けると同じ年頃の少女が梨璃の顔を眺めていた。梨璃の方がひとつふたつ年嵩と見え、実際彼女は百合ヶ丘中等部の制服に身を包んでいた。固より高等部入学組の梨璃が中等部の後輩の顔を見知っている
綺譚1ページ分のPDF

ここからテクニカル(?)なことをやっていて、別のTeXファイルで折り本になるように2ページを並べて、加えて原稿用紙のような匡郭やら版心題やら魚尾やらをあらかじめPagesで作った別PDFファイルから呼び出して合成してこんなPDFに変形させました。

画像化されたテキスト: 海岸線路の夜 がたん。列車はブレーキをかけて少しの揺れと共に動きを止めた。  「あ、お姉さん目が覚めました?」  梨璃の頭上から声がかかる。傾いていた体を起こし寝ぼけ眼をそちらに向けると同じ年頃の少女が梨璃の顔を眺めていた。梨璃の方がひとつふたつ年嵩と見え、実際彼女は百合ヶ丘中等部の制服に身を包んでいた。固より高等部入学組の梨璃が中等部の後輩の顔を見知っているわけもなく、そんな後輩に頭を預けて惰眠を貪っていたと分かると頭にかかった霞はすぐ霧散していった。  「ご、ごめんなさい。よりかかっちゃって……」  「お疲れみたいですし、気にしなくて良いですよ」  爛漫とした笑顔で彼女は答えた。駅名標を見ると乗り込んだ駅から三つ四つばかり進んだところであった。既に夜の帳が降りて久しく、車内に乗客はいなかったはずである。どうやらこの後輩は途中から乗り込んできて梨璃の隣に腰掛け、高等部生の枕を決め込んでいたらしい。  扉が音を立てて閉まり、ゆっくりと列車が加速してい
綺譚の印刷用PDF

それっぽい表記をするならば、「四周双線無界二十五字十一行双魚尾」になるんでしょうか。

印刷

既にお持ちの方はご存知の通り、和装本にしたいと思っていました。そこでいい感じの和紙(自宅で印刷できるもの)を探していて見つけたものに自宅のインクジェットプリンタで印刷しました。

印刷したもの(撮り忘れたので一枚だけあった折り損じの下に未使用の紙を重ねて誤魔化したもの)

ここでも小技(?)を使っています。通常、このようなインクジェット対応の和紙といえば裏表があります。なぜかは詳しいサイトが山ほどあるので割愛しますが要は滲まない面と滲む面があります。もちろん滲む面への印刷は公式が推奨しているものではないので自己責任ではありますがなんか試しに刷ったらいい感じだったので本来では印刷しない方の面に印刷しています。

読みやすいしいい感じの滲みじゃん!と無邪気にはしゃぐ当時の私に「給紙不良のこと考えた???」と聞いてやりたいです。ただでさえ通常のインクタンク一つがおおよそ5冊の印刷で消える中、給紙不良によるミスで一体何部分が計算用紙行きになったか数えたくもありません。

一つ言えるのは、刊行以降、メモ書きに困ったことはありません。

折り

印刷できたら後は簡単です。折って重ねて綴じるだけ。この本は47丁(ページ数で言うとその二倍、表紙裏表紙込みで94頁)になるので一冊あたり47枚折る必要があります。やり方にもよりますが、一冊分全部折るのに大体20から40分はかかったでしょうか。それが9冊分積み重なったのがこちら。鶴紗様…いっぱいおったよ…

折ったうえで軽くプレスした後のもの。サイズ比較用安藤鶴紗様を添えて

ここから下綴じ、表紙裏表紙つけ、綴じ、題箋はりと行きますが今日はこのあたりで。

ごきげんよう